牧師室の窓から 2018年1月

★1月16日発表された第158回芥川賞に若竹千佐子さんの『おらおらひとりいぐも』が選ばれました。若竹さんのこの作品は未だ手にしていませんが、この本の題は、宮沢賢治の『永訣の朝』の一節と同じです。若竹さんは賢治と同郷の岩手県出身です。若竹さんのこの作品の主人公は夫を亡くし、愛犬を失い、二人の子どもも家を出て、孤独に対峙せざるをえないのですが、「私は私で独り生きていく」という気持ちを込めて「おらおらひとりいぐも」という題名をつけたそうです。

実は、宮沢賢治の『永訣の朝』の原文はローマ字で、「Ora Orade Shitori egumo」(おらおらでしとりしとりえぐも)です。「私は私でひとり逝くから」です。『永訣の朝』において、死を前にした妹とし子の思いを賢治が記しています。妹が死にそうだというのに、賢治はお金が無く、薬が買えません。申し訳ない、という思いの兄・賢治に、とし子が、「あめゆぢゅとてちてけんじや」と言います。賢治兄さん、真っ白い雪を持って来て欲しい、それを食べたいというのです。賢治は、薬は買えないのですが、雪の塊なら持って来ることができるというので、一生懸命探して持ってくるのです。そして賢治には、とし子が兄である自分の気持ちを一生明るくするために、こうしたことを願ったことが分かっていたのです。そのためこの詩の最後は「おまへがたべるこのふたわんのゆきに わたくしはいまこころからいのる どうかこれが兜卒の天の食に変って やがておまへとみんなとに 聖い資糧をもたらすことを わたくしのすべてのさいはひをかけてねがふ」と賢治の祈りです。近々、この若枝さんの作品を読んでみたいと願っています。

★新しい年2018年を迎えました。今、礼拝でマタイによる福音書を通して十字架の死を前にしたイエスさまのことに思いを深めています。十字架を前にしたイエスさまは、遠く離れてですが、大祭司の屋敷の中庭まで従って来たペトロに、励まされています。わたしたちができること、たとえそれがどんなに小さなものであってもそれを携えて従うことをイエスさまは喜んでくださいます。昨年暮れ、ノーベル平和賞を受賞したアイキャンが一番励まされたのは、被爆者の方々の、「わたしたちは微力だが、無力ではない」という言葉でした。

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